2023年度 東京都立大学大学院 経営学研究科(MBA)
修士論文 [西村ゼミ7期生]
2024年3月23日(土)のビジネススクール修了式にて。今年度は,4名の修了生です。人的資本,MBO,女性管理職の昇進意欲,HR帰属とそれぞれ異なるテーマに挑戦しました。毎年のことながら年末年始が忙しいので,そこを何とかしたいものです。
大山 真璃
「HR 帰属の組み合わせが高業績ワークシステムおよび公正感に与える影響」
本研究の目的は、第 1 に、戦略的人的資源管理(SHRM)の枠組みの中で企業が実施する
人事機能に対して従業員が認識する HR 帰属の組み合わせと傾向を明らかにすることである。第2 に、それらが組織的公正や高業績 HRM システム(HPWS)と職務満足度に及ぼす影響を分析することにある。
本研究では、従業員が自社の人事機能について、それらが実施される理由や目的に関して持つ認識や解釈である HR 帰属に着目する。先行研究では、HR 帰属は単一の認識として研究されることが一般的であった。しかし、日本企業の HRM は競合他社が導入しているという理由で導入されることも多く、人事機能間にズレが生じていることが考えられる。そのような背景から同じ企業であっても、従業員の HR 帰属の認識は機能ごとに異なると予測される。
分析の結果、従業員の人事機能に対する HR 帰属は複数存在し、これらは勤続年数が長くなるにつれて標準偏差が変わることが明らかになった。また、組み合わせには、コミットメント焦点とコントロール焦点とで分かれる傾向があることが判明した。さらに、HR 帰属のうち、コミットメント焦点は組織的公正に正の影響を、コントロール焦点は負の影響を与えることが明らかになった。
砂原 健一
「自己選択型HRMが、企業特殊的人的資本に与える影響と組織コミットメントとの関係」
本論文の目的は、第1に、国内企業で導入が進む自己選択型HRMに着目し、個人が知覚する企業特殊的人的資本(Firm Specific Human Capital、以下、FSHC)に与える影響を分析し、その影響過程の一端を明らかにすることである。第2に、自己選択型HRMと組織コミットメントとの関係について、コミットメントを情緒的コミットメントと継続的コミットメントの2つに分けて分析し、今後の国内企業に求められる人事施策の規定要因を分析することにある。
本研究では、仕事、働き方、キャリアに関して従業員による主体的な選択の機会を増やす自己選択型HRMの導入が国内企業で進む背景に着目する。自己選択型HRMは、従業員のキャリア選択の可能性を拡大できる利点はあるが、企業側の欠点として、企業主導による従業員の計画的な配置・育成が停滞し、FSHCを醸成する機会の減少が懸念される。他方で、今後ジョブ型雇用が普及すると、自己選択型HRMが理論的には相性が良く、国内企業の人的資源管理が変容し、多様化することも予想される。
先行研究のレビューをふまえ、RQ1では、自己選択型HRMを独立変数に取り上げ、FSHCに対して与える影響と、ソーシャル・キャピタルが両者の関係を調整する効果を分析する。RQ2では、自己選択型HRMと組織コミットメントとの関係について、組織コミットメントの中でも情緒的コミットメントと継続的コミットメントを従属変数として2つの側面から明らかにする。また、会社への信頼が、自己選択型HRMと情緒的コミットメントを媒介する効果と、FSHCが自己選択型HRMと組織コミットメントの関係を調整する効果を分析する。
2時点の定量調査データを用いた分析の結果、FSHCは会社への信頼と情緒的コミットメントの関係を低減する傾向があり、FSHCが一部の自己選択型HRM施策と継続的コミットメントの関係を高める効果を確認できた。この結果より、従業員はFSHCをネガティブに捉え、日々の業務で極力FSHCではないスキルや能力を身につけようとしている可能性がある。
企業主導のFSHCの醸成と従業員主導の自己選択型HRMは、一見すると対極にある施策と考えられるが、自己選択型HRMは従業員の働きがいや組織コミットメントの向上に寄与する施策であるため、業種・職種・従業員のライフスタイルなどを加味したうえで、独自の施策を検討する必要がある。企業は、FSHCを身につけさせるような能力開発だけではなく、むしろ汎用的な自己選択型HRMをはじめとする能力開発メニューを実施した方が、外部労働市場から人材を集められると言える。
田島 亜紀子
「組織および管理職層の組織風土が女性の昇進意欲に及ぼす影響」
本研究の目的は、女性総合職の昇進意欲の変遷プロセスを通じて昇進意欲を低下(向上)させる要因を明らかにしようとするものである。これまで「指導的地位に女性が占める割合を少なくとも 30%程度に」との目標が政府によって度々打ち出されては、達成されずに期限が後ろ倒しされてきた。要因の一つとして、企業がさまざまな両立支援施策を整備しても、なお女性の昇進意欲が上がらず低位にとどまる点が指摘されている。本研究では女性総合職の経時的な昇進意欲の変化に焦点をあてると共に、日本的雇用が暗黙裡に作り上げた「組織風土」が女性総合職の昇進意欲に与える影響を検討した。
分析では、中堅・大手金融機関(銀行、証券、保険)で働く男女正社員 18 人を対象に半構造化インタビュー調査を実施した。そのうえで新卒入社時の職種で「女性総合職(8 人)」「女性一般職・エリア総合職(3 人)」「男性総合職(7 人)」のグループに分け、質的データを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)に基づいて分析した。分析の結果、女性総合職の昇進意欲の変遷と、組織風土や他プレーヤー(男性総合職、女性一般職・エリア総合職、上司・人事)との関係性を示した変遷プロセスモデルを構築した。
M-GTA に基づく分析の結果、女性総合職の昇進意欲は、【同化努力期】【挫折期】【甘受期】【再葛藤期】【変革期】の5つの段階を踏みながら変化し、さらに【挫折期】【再葛藤期】が昇進意欲を低下させるターニングポイントとなっていることが明らかになった。【挫折期】では男性同様に成果を出してきた、という自己評価と「仕事と家庭の両立を求める=やる気がない」ととらえる上司や人事の評価のズレに気づくことで、マジョリティに失望し、昇進意欲を低下させていた。【再葛藤期】では、企業の昇進構造が企業内部と外部で異なる「脱連結」の状態にあり、組織内部にいる女性従業員にとって、その使い分けが見えているが故に昇進意欲が高まらなかったり、低下したりしていることが明らかになった。さらにこの2つの期間における女性の昇進意欲の低下には、企業の組織風土の知覚や、管理職層の組織風土の知覚が大きな影響を与えていることを確認した。
田村 佳之
「営業職を対象とした目標管理制度の運用と従業員の公正知覚に関する考察」
本研究は、企業における人材マネジメント手法として広く浸透している目標管理制度に(以下、MBO)ついて、MBOの運用が成果主義への納得感(従業員の公正知覚)に与える影響だけではなく、MBOのインパクトを調整するような職場レベルの要因について明らかにする。独立変数にMBOの運用(目標の質、上司との関わり)をおき、調整変数に組織要因として(1)情報の共有、(2)チームワーク、(3)1on1ミーティング、従属変数に従業員の公正知覚をおく。(1)~(3)の調整変数がMBOの運用および従業員の公正知覚に与える影響を検討した。さらに、情報の共有およびチームワークについては単独の規定要因だけでなく、情報の共有とチームワークの組み合せについても検討すべく、職場環境内の交互作用についても検討した。
分析の結果、従業員の公正知覚に対してMBOの運用を構成する目標の質および上司との関わりともに有意な正の影響が確認された。職場環境のうちチームワークは、MBOの運用の中でも、上司との関わりが従業員の公正知覚に与える影響について有意な調整効果が確認された。他方で、職場環境のうちチームワークと1on1ミーティングは、有意な影響が確認できなかった。情報の共有の程度(高低)に応じて、チームワークがMBOの運用により従業員の公正知覚に与える影響の調整効果を増加させることが確認できた。
本研究の結果を踏まえると、営業職の成果主義への納得感(従業員の公正知覚)を高める手段としてMBOの運用が有効であることが明らかになった。人事評価としての目標を自己の成長につながるもの、目標達成を果たしたら達成感を得るものを設定し、上司は目標に対する問題解決をするよう進捗の状況を確認することや人事面談において納得いくまで上司と話し合えることが、従業員の公正知覚を高め、成果主義への納得感を高めることに繋がる鍵となる。さらに、管理職は、チームワークをはじめとした職場環境を整え、活用することで、MBOの運用による処遇の納得度を高めることが期待される。
2022年度 東京都立大学大学院 経営学研究科(MBA)
修士論文 [西村ゼミ6期生]
2023年3月25日(土)のビジネススクール修了式にて。今年度は,2名の修了生です。帰国後に担当した最初のMBAです。COVID-19の中での入学から修了でしたが,新しい学びの形を示してくれました。
所田 綾子
「中高年ホワイトカラーのプラトーに対する先行要因の検証」
本研究では、中高年ホワイトカラーのプラトーを昇進プラトー(以下HP)とジョブコンテント・プラトー(以下JP)の2つに分け、両者の規定要因を40~54歳のホワイトカラー正社員に対する定量分析により明らかにする。具体的には独立変数に個人要因として(1)労働価値観をおき、組織要因として(2)上司からのフィードバック(以下FB)、(3)上司支援への帰属、および組織及び組織外との関係性を示す(4)ジョブ・エンベデッドネス(以下JE)を置き、(1)~(4)の独立変数がHPおよびJPに与える影響を検討する。さらに、HPおよびJPの単独の規定要因だけでなく、HPとJPを組み合わせることでプラトーの4分類を作成し、その規定要因についても検討を加えるとともに、4類型による個人業績と離職意思の違いについても検討した。
分析の結果、HPに対して、労働価値観のうち外的価値志向(社会的報酬)が負の影響、ジョブ・エンベデッドネスのうちOn the Job Embeddedness(以下OJE)に負の影響が確認されたが、FB・上司支援の帰属・ジョブ・エンベデッドネスのうちOff the Job Embeddedness(以下OTJE)は有意な影響はなかった。JPに対しては、労働価値観のうち内的価値志向、FB、ポジティブな支援帰属、OJEの下位次元のうちOJEフィット、OJE犠牲、OJE人的リンクは負の影響が確認され、OJE時間的リンクおよびOTJEには有意な影響がなかった。
松浦 美月
「知覚されたHRMの強さがワーク・エンゲイジメントに及ぼす影響
―インクルージョン風土の媒介効果に着目して―」
本研究では、HRM施策に対する従業員の知覚として注目される「HRMの強さ」が従業員の「ワーク・エンゲイジメント(WE)」にどのような影響を与えるかについて、「インクルージョン風土」の媒介効果に着目して検討した。
2時点のデータを用いた交差遅れ効果モデルによる分析の結果、非管理職の従業員では、HRMの強さがWEにポジティブな影響を与えた。しかし、媒介分析ではインクルージョン風土を介してWEにポジティブな影響を与えることが確認された。一般的に風土の醸成には一定期間を要することから、HRMの強さは中長期的に風土を介して従業員の態度や成果にポジティブな影響を与えていることが示唆される。
また、HRMの強さの規定要因についても検証し、「HRポリシーの明確さ」と「人事部門のソーシャル・キャピタル」がHRMの強さにポジティブな影響を与えることが確認された。この結果から、人事部門がHRMに関する方針をわかりやすく発信したり、他部門や従業員との接点を充実させたりすることでHRMの強さの知覚を高め、従業員がいきいきと働ける組織の実現に貢献できる可能性があることが示唆される。
2021年度 在外研究(在,英国)
2020年度 配偶者同行制度により休職
2019年度 東京都立大学大学院 経営学研究科(MBA)
修士論文 [西村ゼミ5期生]
2019年度3月28日に予定されていた修了式は,コロナウィルス対策のため中止となりました。そのため例年の写真はありません。 経営学研究科の1期生です。
榎戸 慶一
「目標管理制度の運用が知覚された組織的支援を通じてワーク・エンゲイジメントに与える影響」
本研究では、目標管理制度の運用とワーク・エンゲイジメント(以下、WE)との関係を明らかにする。その際、媒介変数として知覚された組織的支援(以下、POS)に着目した。
目標管理制度の運用は目標の充実度や上司の目標達成支援など、4つの要素を想定し、これらの要素が高まれば、POSを通じてWEが高まるという仮説を立てた。また、目標管理制度による目標達成度等の評価の昇進・昇格への反映度が高ければ、目標管理制度の運用が厳格かつ適正に行われると想定し、目標管理制度の運用がPOSに与える影響を強めるという仮説も検討した。
分析の結果、目標管理制度の運用のうち目標の充実度のみがPOSを通じてWEに有意な正の影響を与えることが明らかとなった。また、上司の目標達成支援もPOSを通じてWEに間接的に正の影響を与えることが明らかとなった。また、目標管理制度による評価が、目標管理制度の運用がPOSに与える影響を強めるかについては有意な関連を見出すことができなかった。
堀内 葉津美
「正社員の柔軟な働き方がP-E fitに与える影響」
本研究の目的は,正社員の柔軟な働き方がP-E fit(Person-Environment fit)に与える影響を明らかにすることである。ワーク・ライフ・バランスや働き方改革の議論が活発になる中で,労働者を取り巻く環境は大きく変化している。労働環境の変化は,働く人々の利便性を高める一方で,同時に個人と組織の関わり方も変化させる可能性が高い。本研究では,変動する労働環境のなか,個人と環境との適合がどのように変化するかを定量分析により明らかにする。
分析の結果,柔軟な働き方施策のうち,在宅勤務制がP-E fitを高めることが明らかになった。また,柔軟な働き方施策の適用状況によっては,フレックスタイム制と裁量労働制がP-E fitを高めることを確認した。さらに,子どもがいる場合,フレックスタイム制が適用されている労働者は,適用されていない労働者に比べてP-E fitが高いことが明らかになった。柔軟な働き方施策のほか,職務完結性や職務自律性がそれぞれP-E fitを高め,サービス残業時間がP-E fitを低めることが明らかになった。
働き方改革関連法の制定に伴い,今後,多くの企業が長時間労働の是正や柔軟な働き方を支援する取り組みに向き合う必要がある。柔軟な働き方施策を取り入れても,必ずしもP-E fitが高まるとは限らないため,注意が必要である。
2018年度 首都大学東京大学院 ビジネススクール(MBA)
修士論文 [西村ゼミ4期生]
2019年3月23日(土)のビジネススクール修了式にて。今年度は,5名の修了生です。「社会科学研究科」として修了する最後の年度です。
瀧口 暁生
「限定正社員の基幹労働力化と人事管理施策がワーク・モチベーションに与える影響」
本研究では、限定正社員を対象として、基幹労働力化の度合い(量的基幹度及び質的基幹度)と、雇用区分間の均衡に関わる人事管理施策(均衡度及び転換可能性)が、彼(女)らのワーク・モチベーションにどのような影響を与えるかについて検討した。検討にあたっては、組織的公正の考えを用いて、公正感(分配的公正、手続き的公正、相互作用的公正)と比較対象(自らの処遇を誰と比較するのか)を分析モデルに取り入れ、直接確認した。
本研究の結果、(1)量的基幹度が公正感に影響を与えること、(2)均衡度が分配的公正に正の影響を与える一方で、転換可能性が相互作用的公正に負の影響を与えることが明らかとなった。また、(3)量的基幹度と均衡度は比較対象に影響を与えるが、その影響は限定的であり、比較対象として選択されるのは主に無限定正社員であること、質的基幹度と転換可能性は比較対象には影響を与えないこと、比較対象が公正感に影響を与えることが確認された。さらに、(4)分配的公正及び相互作用的公正、特に後者がワーク・モチベーションに強い影響を与えることが確認された。
山内 次英
「職場のダイバーシティと職場風土マネジメント―製造職場における実証分析―」
本研究の目的は、雇用形態の多様性が進む日本の職場において職場風土と人事施策に着目しながら、多様性を備えた職場がどのような状況に置かれると職場成員が最大限に能力を発揮できるかについて示唆を与えることである。
国内のものづくり職場にアンケート調査を行い、職場レベルと個人レベルの2つのデータを用いて検証した結果、第1に、雇用形態の多様性が高い職場ほど、心理的側面や職場風土にプラスの影響を及ぼすこと、第2に、ダイバーシティ風土とハイ・インボルブメント型HRM施策は、雇用形態ダイバーシティの中でも有効であることが明らかになった。以上のことから雇用の多様化は、属性間のコンフリクトが生じるリスクは潜在的にあるものの、ものづくりの現場では、雇用形態ダイバーシティによる心理的側面や職場風土へのプラスの効果を認識しながらダイバーシティ風土を醸成させるような人事施策の実践や職場マネジメントが重要であることを指摘する。
2017年度 首都大学東京大学院 ビジネススクール(MBA)
修士論文 [西村ゼミ3期生]
2018年3月24日(土)のビジネススクール修了式にて。入学から修了まで丸の内キャンパスで完結した最初の修了生です。
島津 侑香
「今後の転勤の在り方―転勤許容度から考える―」
本研究では、いまだ明らかになっていない個人のライフスタイルやキャリア観に即した転勤施策を検討するために、新たに「転勤許容度」という概念をモデルに取り入れる。また、企業が提供する転勤施策と本人が知覚している転勤許容度との関係性を解明することで、キャリアの不安を払拭するための転勤施策を見出す。
分析の結果、転勤許容度は年代によって変化し、その規定要因として、年齢、異動回数、役職、配偶者の有無であることが明らかになった。転勤許容度が明らかになったことより、これまで考えられていた日本的経営が駆動するメカニズムをより明らかにした。またキャリア不安を低減させる施策として、転勤の希望に関する自己申告の制度や社内公募制度や社内FA制度が挙げられることが明らかになった。これらの結果から、終身雇用制や年功制に象徴される伝統的な人事管理の一つとしての転勤について今後の望ましい在り方を指摘する。
2016年度 首都大学東京大学院 ビジネススクール(MBA)
修士論文・課題研究論文 [西村ゼミ2期生]
2017年3月25日(土)のビジネススクール修了式にて。丸の内キャンパスに移転後初の修了生です。
増田 智成
「キャリア自律した人材のリテンションに関する研究
-媒介要因としての自己選択型HRM知覚に注目して-」
本研究の目的は,第1に, A社(386名)での質問票調査を用いてキャリア自律と退職意思との関係性について自己選択型HRM知覚を媒介変数におくことで,定量的に明らかにすることである。第2に,退職意思の先行要因として組織コミットメントをおくことで, 自己選択型HRM知覚と退職意思との関係性を明らかにすることである。
本研究のインプリケーションは, 第1に,キャリア自律意識の高い人材は,企業内でも高い業績を上げている人材であり,彼(女)らにとって自己選択型HRMがリテンションに有効であることを実証した点と,第2に, 同じ自己選択型HRMであっても,形成される組織コミットメントが異なることを実証した点である。
2015年度 首都大学東京大学院 ビジネススクール(MBA)
修士論文・課題研究論文 [西村ゼミ1期生]
※氏名のアルファベット順
2016年3月26日(土)のビジネススクール修了式の様子です。来年度から丸の内キャンパスに移転になるので,都庁で行われる最後の修了式でした。
藤本 邦男
「心理的エンパワーメントが自発的なメンタリング行動にもたらす影響
~日本企業のメンターの心理学的特性に対する一考察~」
メンターの心理学的特性及び影響を受ける組織的要因を明らかにする事を目的とした質問票調査を行い286名の回答を分析した。心理的エンパワーメントは自発的なメンタリング行動に正の影響を与え、影響感がキャリア的機能を促進し有意味感が心理・社会的機能を促進した。組織的要因は権限委譲と個人の業績給がメンタリング行動を阻害しチーム業績給は促進した。職位と勤続年数に有意な影響が認められた事から有意味感と影響感を背景に仕事に見出した意味や長年培った暗黙知を下位者に伝えるメンター像が考えられた。成果主義制度下や組織での役割が曖昧になるとメンタリング行動が生じ難くなりチーム連帯下では生じやすくなる事が示唆された。
松岡 太一郎
「日本の派遣企業と派遣社員との間の心理的契約」
本研究は,理想的な労使関係の解明の初めの1歩として,よりよい日本の派遣企業と常用型派遣社員の関係への糸口にまでたどり着くことを目的とする。
理論的含意としては,常用型派遣社員への定性調査を通じて,派遣元企業と派遣社員との間の心理的契約及び派遣先企業と派遣社員との間の心理的契約の構造を明らかにすることで,日本の派遣労働の実態を明らかにした。実務的含意としては、平成27年労働者派遣法の改正を意識しつつ,本研究で明らかになった派遣労働の実態に対応した派遣企業の人事マネジメントの方向性を明らかにした。
岡田 英之
「心理的契約の不履行を規定する要因-若年労働者を対象とした実証研究-」
本研究の目的は、若年労働者を調査対象として、心理的契約の不履行を規定する要因を探索し、各要因の影響度合いを実践的なインプリケーションも含めて検討することである。
入社5年目までの若年労働者を対象とするアンケート調査を実施し、8つの仮説について、因子分析、相関分析、重回帰分析を行い検証した。結果、評価機能と職場環境が手続き(プロセス)の公正性という心理的契約の不履行に、育成機能が労働条件という心理的契約の不履行にそれぞれ正の影響(不履行を抑制する)を与えることが確認された。
本研究のインプリケーションは、若年労働者が知覚する心理的契約の不履行の規定要因を特定したことと、不履行の規定要因をコントロール(調整)するための方略について、人事施策を中心に導出したことである。
苧園 直秀
公務員のワーク・モチベーション
-「仕事・会社への誇り」が動機づけに及ぼす影響に着目した実証研究-
本研究の目的は、公務員のワーク・モチベーションに影響を及ぼす要因を探索し、その相対的影響度合い及び因果関係を検討することである。先行研究に基づき、自尊感情(有能さ)、自己決定の感覚、仕事への誇り、会社への誇り、外的報酬の5つを、公務員のワーク・モチベーションを支える動機づけ要因と位置づけ、質問票調査に基づく重回帰分析及びクラスター分析等を実施した。本研究のインプリケーションとして、公務員のワーク・モチベーションの実像を照射する上でいわゆる誇りの概念が説明力を有することを明らかにした点、動機づけ要因の組み合わせがキャリア形成の段階や状況等に応じて変化する可能性を示唆した点を指摘する。
田所 敏昭
「異動がミドルマネジャーの能力形成に与える影響についての研究」
本研究の目的は、ミドルマネジャーの能力形成に有効な異動の仕方と、異動と能力形成を調整する要因を明らかにすることである。知的熟練論、経験学習論、管理者行動論を概観したうえで4つの仮説を検討した。
『ワーキングパーソン調査2010』(リクルートワークス研究所)を用いた分析の結果、以下の2つが明らかになった。第1に、全く異なる職務への異動は、知識結合による熟達化の発生する可能性があると共に、上司や先輩・同僚との関係が調整要因となること、また上司と先輩・同僚との調整要因に差があることが明らかになった。第2に、異動回数と能力向上の関係は、異動前の業績の違いで異なることから様々な分野を連動して分析する必要があることが示唆された。これらのことから異動に当たっては、個々に異動計画を策定して、長期的な視野で能力開発をする必要があること、また、異なりの程度が大きい異動により能力形成を図るには、上司の支援が重要であることを指摘する。
田中 良知
「グローバルプロジェクトチームの意思決定能力およびコミュニケーション能力に対するグローバルダイバーシティの影響に関する研究」
本研究の目的は、複数国のチームメンバーで結成されているチームにおいて、国籍のダイバーシティが何をもたらすのか、メリットやデメリットを実態的に把握することである。
製薬企業の新薬開発に携わるプロジェクトマネージャーにインタビュー調査を実施した結果、国籍のダイバーシティはプロジェクトチームの意思決定能力を向上させる一方で、コミュニケーション能力を低下させることが明らかとなった。さらに、「正式な職務の必要条件ではない行動で、組織の効果的機能を促進する行動(組織市民行動)」により、チームの意思決定能力とコミュニケーション能力が向上し、プロジェクトの成功確率を増加させることが示唆された。